「おーい、カトケンくん」
入社して1ヶ月が過ぎた6月のある日。事務所書庫の片づけをしていた僕は、係長に声をかけられた。
「今日の夜、大丈夫?」
部屋を覗き込みながら、係長は書庫の埃っぽさに眉をひそめる。
「ああ、学戸小学校のホタルの観賞会ですよね。7時半集合でしたっけ」
今日は蟹江町立 学戸小学校に放流したホタルの観賞会の日。
「そうそう、俺行けないから頼むね~」
「ええっ、行かないんすか!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「…まあとりあえず鑑賞会行ってちょっと撮影するだけですから、別にいいっすけど…」
「だろだろ?じゃあたのむわ」
「ちょちょっ、ひとついいすか?」
僕は逃げようとする係長の腕をつかんだ。
「前から訊きたかったんですけど、ウチの会社とホタルの関係を、200文字以内で簡潔にご説明いただきたいんですけど」
正直に言うと、僕はなぜ学戸小学校のホタルの観賞会がうちと関係あるのか、実はいまいち良くわかっていなかった。建設会社、小学校、ホタル?どんな関連があるのか?
口をへの字に曲げていた係長はニヤ~っと笑い、親指を立てる。
「『詳しくはWebで!』」
「…いやいやいやいや、真面目に答えてくださいよ!!」
「なんだよ、しょーがねーなぁ…」
係長は頭をぼりぼり書きながら、手近にあったパイプ椅子に座り、話し始めた。
「綺麗な水って言えばホタルだろ?話はそこからだったんだ」